2014年2月21日金曜日

 少し前にコペンハーゲン動物園のキリンについて書いたけど、それに関係するかもしれない話題として、今日は爬虫類・両生類の安楽死について少しふれてみたいと思います。本来、誰の物でもないいきものの命を人間による勝手な判断の末に終わらせる・・・ということはいうまでもなく賛否両論分かれる事だけど、近年人間と野生の両爬の生息環境のオーバーラップ、また世界的にペットとして飼われる生体数の急増にあたって、交通事故や輸送によるストレス、問屋や小売店での雑居、不適切な飼育環境から、回復不能な怪我や疾患を抱える爬虫類の数もまた増加しているという現状があり、それにともなう人道的な安楽死に関する情報などが「ちしき」としてあってもいいんじゃないか、と思います。今日は、近年おもに採用されている5つの手段をおおまかに列挙してみます。

 爬虫類 両生類の安楽死

1 頭部と脳の切除

 たぶん最も原始的で、最も心象が悪く、かつ非常に有効な安楽死の手段。とはいえ、中型以上の爬虫類の場合、一気に首を切り落とすことは案外困難で、もし始めの一太刀に失敗した場合、いきものに激しい苦しみを味わわせてしまうという側面がある。管理人は以前レプタイル・レスキュー関連の記事で、飼い主によって首を切られたボア・コンストリクターが、頭と体が気管と食道のみでくっついている状態だったにも関わらず、手術の末回復したという、驚くべき手記を読んだことがある。このように、外傷に対する爬虫類のバイタリティは驚くほど強靭なことがあるので、適切な道具や補助(生体の沈静化を促す薬品など)がない場合はあまり勧められない手法である。同様の理由で、頭部を切断されても生体の脳は暫く生きている可能性があるので、脳を刃物やプローブなどで速やかに穿孔するか、切除して完全に破壊する必要がある。

2 頭部(脳)への的確な打撃

 これまた原始的かつ、最も有効な手段のひとつ。たとえばフィールドにおいて落下や外敵に襲われたり、交通事故に遭ったりして致命的な怪我を負い、苦しみのた打ち回っている両爬虫類を見つけるなどの「緊急時」において、特に特別な道具なしに行うことの出来るもの。打撃は生体の両目を結んだ線の中心から後方に向けてありったけの力を込めて行う。というのも1でふれた手段と同じく、もし失敗した場合、生体は非常な痛みと苦しみに苛まれることになるので、打撃は確実に行わなくてはいけない。大型の生体やワニ類に対しては適した経口を持つ銃器(猟銃など)によって行う。

3 ガス

 近年、爬虫類や両生類の安楽死に使われるガスはクロロホルム、一酸化炭素、メトキシフルランなどが挙げられる。ガスを使った安楽死は比較的苦痛が少ないのに加え、生体に直接触れる必要がないため特に有毒種に対して有効である一方、比較的時間がかかること(施術が不十分だと蘇生する)、格納容器や基材の入手が比較的難しいため、獣医師や、それに類する有資格者の監督のもとで行われる。

4 凍結

 いわゆる冷凍庫に放り込むことは小売店などでも比較的よく見られる悪習だが、近年、全身の筋肉が結晶していくことは生き物にとって非常な苦痛を伴うことが分かってきており、アメリカ獣医師学会の主張によると凍結という手法それそのものは非人道的であるとされている。また個人的に思うのは、ヘビの種類によっても耐寒性に大きな差があるので、一概に人道的・非人道的と断じるのは難しいのではないかということ。たとえばボアコンストリクターやビルマニシキヘビなどの熱帯産のヘビは、もしかすると冷凍庫の中で急速に意識を消失して楽に亡くなる可能性もあるが、同じ環境におかれたサラサナメラやクサリヘビの仲間などは長い間苦しむかもしれない。両生類の中には低温にとても強い種もいる(体の一部が氷結したとしても、蘇生するものすらいる)。これらを踏まえて、この手法は900グラム以下の生体に対して、麻酔下においた場合のみ行われるべきものである。

5 薬物

 最後に、爬虫類と両生類への安楽死が「速やかな生体の意識の喪失と生命活動の停止」をめざすなかで、最も人道的かつ、我々人間側にとっても心理的負担の少ない手段が、バルビツールなどの薬物を静脈や体腔に注射することによる安楽死である。獣医科医院において、有資格者の監督のもと施術を受けることが出来る。これは犬や猫が必要に応じて受けるタイプの安楽死術と同じもので、生体は痛みを感じることなく速やかに旅立つ。


 以上、個人的にはどれも選びたくないものばかりだけど、いきものとかかわっていく上で時にはこんな事について考えるのも重要なんじゃないかと思っています。因みにトイレに流すことだけはやめてくれというのが、識者の間で共通の見解みたいですね。というのも、トイレに流されてしまった生き物の一定数はすぐに亡くならずにパイプの中で怪我をしたまま排泄物にまみれて、窒息の恐怖に怯えながらゆっくりと死んでいくのだそうです。遺体の処理法としても、ペットとして流通する両生類や爬虫類がどのようなバクテリアをもっており(それらが下水を通して最終的に河川に放出される可能性をふまえると)環境に対してどのような影響があるか、まだまだあまり分かっていないため推奨されないやり方だそうです。土に埋めることも、同様の理由であまりよくないとか。焼却処分が一番清潔とのことで、一見、すごく可哀想に見える「燃えるゴミ」として処理する方法は実は結構理にかなっていると分かります。ペット用の火葬サービスを利用するのも良さそうですね。今回のエントリーは管理人の勝手な私見のほかに、アメリカ獣医師学会AVMA Guidelines for the Euthanasia of Animals: 2013 Edition (PDF)Melissa Kaplan's Herp Care Collection ; Euthanasia of reptiles、などを参考にしました。

2014年2月19日水曜日

Spring is near!

 日本でいえば仙台とほぼ同じ緯度の、東北的気候帯に位置するここバージニア州ですが、先週一週間外気温が5~10度前後まで上がっていました。この池はそれまでは厚い氷で完全に閉ざされていましたが、先週以降薄くなっていく氷の下にカメが透けて見えたりと、春の訪れをなんとなく予感させるような、ここ数日間でした。そして今週ついに倒木の上で日光浴しているトウブニシキガメ達を発見。成体2匹、おそらく2歳程度の子ガメ1匹がのんびりと日にあたっていました。この日は写真の左側に雪が残っていることからも分かるとおり、気温は6℃しかありませんでしたが、テンプガンでカメの甲羅の温度をみてみたところ、なんと20℃以上まであがっていました。暗色の甲羅が思った以上に効率よくカメの体温を上げているようです。

2014年2月18日火曜日

 
 いまさら感が漂うけど・・・2月です。年末、私生活がかなりばたばたしていたのを「師走だからな」と無理やり納得していたところが、年始過ぎてふた月だってもまだなんとなくバタバタしていてわけがわからない。見た目鈍重感漂うくせに実際は妙に落ち着かず、しかもちょっと気を許すと噛んでくるという、イワヤマプレートトカゲ的な生活(謎)。そんな中DCの動物園の爬虫類館でキーパーエイド(飼育補助員)をはじめてから、だいたい2ヶ月がたちました。


 動物園ならではのおもしろい取り組みだと思ったもののひとつに、爬虫類のトレーニングがあります。といっても「お手」や火の輪くぐりを仕込んだりするわけではなく、人間の出す合図にそって、自ら進んで一定の行動をとるよう「コンディショニング」することによって、特に大型であったり、毒のある生き物の管理活動やケアをしやすくするというねらいがあります。写真は、スミソニアン動物園のコモドドラゴン「マーフィー」がトレーニングを受けているところ。歴代の担当達によってフリスビーに注目・追いかけるように学習させられています。マーフィーは1992年生まれののんびりした性格のオスで、野生下では平均30年と言われているコモドドラゴンとしては壮年というところなのかな。前任の担当者が好んで使っていたフリスビーの色である、明るいパープルが彼の好きな色です。おやつの解凍ラットを拾う時近づいてくる顔はやぶれたスリッパみたいでとてもかわいい一方、飼育下にあるのにも関わらずものすごいバルクのある筋肉をしており、野外で出会ったらかなり恐ろしいと思われる生物。マーフィーが生まれ年まで正確に分かっているのは、彼が世界で初めて飼育下で繁殖された個体のうちの一頭であるためです。

2014年2月12日水曜日

 デンマークのコペンハーゲン動物園のキリンについて(キリンを来園客前で解体、ライオンの餌に MSNニュース)賛否両論が白熱していますが、みなさんはどう思われたでしょうか。管理人は「生きること」だとか、「性」とか「死」に対して常に直球勝負してくる、非常に北欧らしい態度だと思って少し感心してしまいました。あの空気感は実際そこへ行ってみないと分からないものがあると思います。他の文化圏の人々からは理解はされにくいでしょう。アメリカだったら今ごろ職員室に銃弾が打ちこまれているところです。

 話がそれましたが、動物園職員による展示動物の殺処分というのは、実はそんなに珍しいことではありません。管理人は米国立動物園のキーパーエイドとして園の中に入るようになってまだ2ヶ月ぽっちですが、この間すでにチーターが一頭、健康上の問題を理由に安楽死処分となっています。英国のロングリート・サファリパークでも今年はじめ生体の密度調整のため、健康上全く問題の無い6頭(4匹の子ライオンを含む)を安楽死処分しています。このような判断は通常、時間をかけて、動物のエキスパートたちによる議論に議論を重ね、検査や治療を重ねたうえで決定されているので、今回多くのメディアが主に安楽死と解体のパートだけをとりあげて、センセーショナルかつ批判的報道をした事はちょっとフェアではないと思いました。

 動物園で働く人々を間近に見て思うのは、ここはディズニーランドでも、かわいい動物とならんで写真を撮ったりするだけの場所でもないということです。現代における先進国の動物園とは、健全な生物種の保全と保護を推し進める場所であり、同時に教育機関でもあります。重要なのは動物園はアニマル・ウェルフェア(動物の福祉・繁栄)側にたった機関であり、その活動はアニマル・ライツ(動物の権利・愛護)の考えとは一線を画しているという点です。動物園は限りある予算と物質的な制約のなかで、その種に対して最大級の貢献をすることを常に問われており、そのために一般の人からみれば「ダークサイド」ともとれるような一面を持ち合わせています。今回の一連の出来事は、大衆がそのベールにつつまれた「ダークサイド」を垣間見るきっかけになり、今後、動物園の成している役割とその重要性について一般社会がより成熟した理解を示すための一歩になるんではないかと思いました。

2014年2月3日月曜日

 ボア類を飼う時の水の大事さについてはときおり言及していましたが、今月病院へ検査に行った折獣医師に言われたアドバイスは、自分が普段行っていた水のケア(3日に1回飲み水の交換、毎日1回のミスティング+ウェットシェルター設置)よりもだいぶ過激だったので、忘れないうちに整理しておきたいと思います。

 先生に薦められたのは「とにかくとことん加湿」、理想的には加湿器を使用し常に70%前後。
 通気性は確実に確保、部屋ごと暖めて冷たい空気が流入しないように工夫。

 ・ 大型のウェットシェルターを置き
 ・ 日に2~3回のミスティング
 ・ 水は2日に一度全交換。容器も確実に洗浄。
 ・ 週に1~2回は30℃ほどの水で沐浴を実施する。脱皮前は毎日

 これを見るとウェットシェルターや換水についてはともかくミスティングや温浴の頻度が日本で言われているものと比べかなり多く、頻繁に清潔な水に触れさせることが良しとされています。これについて獣医師の先生曰く、近年アメリカでヘビの健康と水分補給の相関関係がより明らかになってくるにつれ、特にボアの仲間にとって温浴などで一定期間全身が水に浸かったり、そこで運動することが健康上非常に大事であるという考えが一般的になりつつあるそうです。これ、多頭飼育している人などには結構頭の痛い話かもしれませんが、一般家庭で飼われているボアの殆どが寿命を全うすることなく死んでしまうという現状を踏まえると、一考に価するのではないだろうか。

2014年2月2日日曜日

 コラムのぺーじ「ヘビを病院に連れて行くとき」にまとめましたが、1月の中旬頃から「大きいロンギ」の方がちょっと元気がないように見えて気になっていました。個体が不活発になり、いつもと同じルーティン・同じ量の餌を食べていたのに、わずかだけど体重が減少しているように見えたのです。またもともととても好奇心が旺盛なヘビで、ケージの中になにか知らないもの(新しい床材・新しい温度計、ピンセット、手袋など)が入ってくるとイソイソと見に来る癖があったのですが、それらの行動があまり見られなくなったことも不可解でした。念のためにと病院で診察して貰った結果は、呼吸器の感染症の最初期段階という事でした。飼育部屋の温度・ケージ内の温度・およびケージ床の温度など、基本的な環境は今まで約4年間キープしてきたのと同じ全く同じだったので不思議でしたが、地域に強い寒波が来ていたこともあり、部屋の床近くが冷えた日があったのかもしれません。それにしても爬虫類は繊細な生き物なんだっていうことをあらためて思い出させられた一件でした。

 そして、原因がわからないのも非常にムズムズしたので週末はケージを見ながら考えていました。というのも床材を新聞紙に変えて以来状態を崩したような気がしていたからです。しかし、新聞紙といえば爬虫類の床材の元祖みたいなもので、新聞紙自体が原因になっているとは考えにくかった。そこで、今使っているケージのプラスチック素材が、自分が思ってるよりだいぶ冷えやすいのではないか?と思いました。調べた結果管理人の使っているネオデシャケージの素材「ABS樹脂(工業用プラスチック)」は、日本で馴染みのあるいわゆる「プラケ」や衣装ケースに使われる素材であるポリプロピレン、スチロール樹脂などに比べて密度が高く、また大型のケージの構造をサポートするために厚い材が使われているので、それに比例して熱伝導率が大きくなっている事が分かりました。ヘビは常に寝そべっている状態の生き物なので冷たい床に直座りは厳禁、と飼育書などではおなじみのフレーズですが、こんな身近にそんな可能性が潜んでいたとは。思えばここのところ毎朝起きてコーヒーを飲みながら、くしゃくしゃになった新聞紙とその下に入り込んだヘビを直してあげるところから一日が始まっていたような気がします。


というわけで、対応策として床材を紙製のふわふわしたものにかえました(写真)。この床材は、自分が鳩の繁殖をやっていた時とてもお世話になったケイティという飼鳥用品会社のもので、獣医師さんも推奨していた床材です。テンプガンを動物園の人に譲ってもらって経過をみていますが、どうやらほぼ回復したようです。新聞紙はくしゃくしゃになってしまうのと保湿の観点(ミストしても保水力が無い)から冬場使う時は注意を要することが分かりました。