2014年10月22日水曜日

不定期更新「盗まれた世界」2

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 その日私は、ウェイン・ヒルが言った通り、プールサイドのテーブルにぽつんと座っているハンク・モルトを見つけた。夕方近かった。モルトがその時手にハイネケンのビンを持っていたかどうか、私の記憶は定かではないが、この日以降私は彼がこれと全く同じ状況・セッティングにある所を、一度ならず見ることになった。

 モルトは痩せて背の高い50代中盤位の男で、そしてトム・クラッチフィールドに起こった事の顛末について、大いにおもしろがっているように見えた。彼は(クラッチフィールドと同じく)タトゥーとポニーテールの美学を注意深く回避しており、かわりに清潔に整えられた短髪にカーゴパンツを履き、殆ど陸軍兵の様に見えた。彼は非常に聡明である一方、些細な事で狂騒状態に陥る人特有の、出っ張った眼をしていた。そして、彼が何年もかけてたった数頭を手に入れるためにあれこれ考えを巡らせていたマダガスカルのフチゾリリクガメ達について、どこかのやり手がやってきて、まんまと(それも一気に75頭も)盗み出すのに成功した事について、かなりうっとおしく思っていると述べた。

 モルトはあのエキスポ会場に居ながらなんの看板も掲げず、スローガンも、ブースもなく、動物すらも持っていなかったのである。モルトにとってこの「ハーペトカルチャー」と呼ばれるもの―ミューテーション、デリカップの山々、そして見せかけのサイエンス―が持つ魅力は限定的なものであった。彼は言った、自分は野生の生き物とその美しさ、その希少性、そしてそれらを得るための場所へ分け入るために生きていたと。そして今日び見られる動物達は皆、既に物語性を失っているのだとも。モルトが自身を恥知らずの熟練密輸人ではなく、「希少動物専門の特殊業者」と銘打っていた数年間、世界のどこかから動物園に現れる彼の布製サックからは、トカゲやヘビ達が取り出されたのだ。彼はサックを一つづつ開けながら、這い出る生き物についての物語を説いて回ったのだ。それは効率的な動物の売り方ではなかった。それは戯曲であった。一つの演目をやり終えるには何時間も要した。

 「それはヘビにまつわる『ロマンス(冒険譚)』だったんだ」と彼は言った。ふたを開けてみれば、それは見るに堪えない歪んだ『ロマンス』だったのである。


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著者Jennie Erin Smithは科学と自然史に精通し多くの受賞歴を持つフリーランスのサイエンス・リポーターであり、頻繁にTimes Literally Supplementに掲載されている。彼女はフロリダで数年間環境リポーターを務めたことがあり、そこで著作Stolen World (2011)を書くのに必要な多くのコンタクトを得た。