2014年10月17日金曜日

不定期更新「盗まれた世界」1

 春にオーダーしてからずっと積ん読状態になっていたジェニー・スミス「盗まれた世界」をやっと手に取った。今2章ほど読んだ所だが、日本語にしてだれかと共有する意味のある本かもしれないと思うようになった。この本は爬虫類のペットトレードに関するほぼ(※)実話に即したドキュメンタリーで、300ページ以上あるハードカバーなので興味の無い人には苦痛かもしれないが、近代博物誌動物園爬虫類のペットトレード「ハーペトカルチャー」の歴史密輸トム・クラッチフィールド、などなどのワードにピンと来る人にとっては面白いと思う。ブログにこうして全文をアップするのは多分、米国著作権法の定める「フェアユース」の範疇ギリの所だと思うので、本文の二次活用、特に商業的な利用はご遠慮ください。適度な所でぷちぷち切りながらの気まぐれ更新になると思うので、それでも良ければご覧ください。ではここから始めます。※「著者によるはしがき」にて後述する3人の登場人物のみ仮名になっている。
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著者によるはしがき

 この本はインタビュー、裁判記録、時事録(出版されているもの、いないものに関わらず)をもとにして書かれた。ほぼすべての引用文はインタビューから、それ以外のものも宣誓証言から起こされている。ベンジャミン・バックス、ステファン・シュワルツ、そしてカール・ソレンセンの3人以外、名前も全て本名である。
Part 1:The Kraftsman

 出展者達は自分達のテーブルにつき、積み上げられたデリカップ―食料品店で小さなオリーブやクリームチーズを分配するのに使われるプラスチック・コンテナ―の列に目を走らせていた。一つ一つのカップには丁寧に空気穴があけられており、中にはトカゲやヘビの赤ん坊が入っていた。

 時は1996年の8月、ナショナル・レプタイルブリーダーズエキスポは今まさに始まったばかりだった。オーランドホテルの大展示場数室分に及び、出展者たちは布製の看板のもと、デリカップの群れを展示していた。看板は漠然と、プロパガンダ的スローガンを掲げていた:商業化を通した保護科学的経済活動を通して(種の)存続を保証する。出展者たちはほとんど全員が男性で、そのうち少なくとも半数はタトゥか、ポニーテールか、爬虫類のパターンが描かれたTシャツを着ており、幾ばくかの人々は上記全ての特徴を備えていた。

 かつて人目につかないものだった爬虫類を飼育するという趣味は急速な成長を見せ、新しい名前を得た。「ハーペトロカルチャー」である。一見「ハーペトロジー(爬虫類学)」に聞こえるが、真の爬虫類学者になるためには博士号が必要である。しかしある朝あなたが目覚めて、飼っているヘビが卵を産んだことを見つけた時、あなたは「ハペトロカルチャリスト」になる。出展者たちは爬虫類を普通ではない色、またはアルビニズムなどの変異のために繁殖し、それらの操作は動物達の価格をただただ上昇させた。「貴重で素晴らしい個体を海外から手に入れるには、以前は輸入業者や密輸人に頼るほかなかった」とある出展者は述べた。しかし現在は「ハーペトカルチャー」のおかげで、彼らはその珍品類―依然として価値があり、しかし純正に法に則った―を自宅で創出することができる。そればかりか、これまであまたの種を繁殖させたことによって、彼らは危機に瀕する爬虫類を絶滅から救っているという。

 これらにまつわる諸々の事はとても高貴に聞こえた、ただニューヨークタイムスが数週間前に一面を割いて伝えた、マダガスカルの特別保護施設から盗まれた非常に希少なヘサキリクガメ達のニュースを除いては。記事は、盗まれたリクガメのうち何頭かはこのオーランドのエキスポで浮上してくる可能性を示唆していた。さらにこのエキスポの3日前には、ここから一時間ほど先のフロリダ州ブッシュネルのダイナーで、合衆国魚類野生生物局のエージェントが61匹のヘビと4頭のリクガメ(フチゾリリクガメではないものの、マダガスカル産の種)を密輸しようとしていたドイツ人を逮捕していた。ブッシュネルのダイナーでこのドイツ人は、いったい誰に会う予定だったのだろうか?エージェントはその事については触れなかったが、エキスポの出展者達は皆知っていた。

 フロリダ州ブッシュネルに住んでいる爬虫類のディーラーは1人しかいなかった。彼の名前はトム・クラッチフィールドと言った。エキスポでは、クラッチフィールドは一番目立つブースと見栄えのする看板、そして生え抜きの動物達を持っていた。彼のテーブルの横にはペアで750万円の値段を付けられた2頭のアルビノイグアナ―微動だにしない美しき怪物たち―がいた。クラッチフィールドは口ひげを蓄えた小柄だががっちりした男で、そしてとにかく異常に苛立っているように見えた。野生生物局のエージェントが、ひとりのドイツ人などよりも何かもっとずっと大きなものを取り潰そうとしている事はだれの目にも明らかだった。

 このエキスポのオーナーであり、地元フロリダの出でもあるウェイン・ヒルは、こうした騒ぎをよそに私を彼のペントハウスの居間に招いていた。半ダースほどいた彼の仲間達に囲まれながら、ヒルは座っていたカウチの背をくつろげ、爬虫類のビジネスについて、そしてそれがどのようにしてここまで大きくなったかなどをもったいつけながら話した。ウェイン・ヒルは引退した燃料技術者で、それまでに何年かをサウジアラビアで過ごしていた。彼は生粋の石油マンであったが、それ以上にひとりの爬虫類好きでもあった。砂漠で―ヒルは言った―彼はひとつのビジョンを持つに至ったという、まるで神やモーゼでも目の前に現れたかのように。

 その演説は今までに何度も繰り返されてきた節があったが、仲間たちは聞き入っていた。その砂漠で―彼は続けた―ヒルは、爬虫類のディーラー達が自由に生き物を売り買いできるフォーラムを、心に描いたのだという。彼が初めてのエキスポを開催する以前は、ディーラー達の活動の場は動物園やサイエンス・シンポジウムに向けてなどのみに限られていたと、ヒルは説明した。世界的に野生動物のトレードが忌避されるようになりゆく中、ヒルは純粋にディーラー達のためだけのエキスポを開催した。フロリダ州オーランドのハワード・ジョンソンホテルの小さな一室にて、1990年の事だった。今、その6年後の現在、我々はもっとずっと大きなホテルの会場にいる。「ニューヨークタイムスはなぜ、ヘサキリクガメがこの会場に現れると考えたのでしょうか?」と私は彼に尋ねた。ヒルは気色ばんで、誰か敵愾心を持った人間、おおよそどこかの動物園関係者か「動物愛護ナチ」による考察だろうと述べた。私はこれ以上、あのドイツ人やトム・クラッチフィールド、またはあの明るいエキスポ-あたかもオルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』に出てくる胎児達のように、無菌のコンテナからヘビが取り出される-が、未だ密輸人に何の用があるのか、などについては聞かないことに決めた。

 ところがおかしなことに、ヒルは私に、彼が個人的にとても好感を持っているというひとりの密輸人を紹介したのだ。ヒルが言うには、彼なしには、今オーランドで見られる素晴らしい生き物たちの多くは存在しえなかったという。そして次の日、私はハンク・モルトに出会ったのである。

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著者Jennie Erin Smithは科学と自然史に精通し多くの受賞歴を持つフリーランスのサイエンス・リポーターであり、頻繁にTimes Literally Supplementに掲載されている。彼女はフロリダで数年間環境リポーターを務めたことがあり、そこで著作Stolen World (2011)を書くのに必要な多くのコンタクトを得た。かわいいアメフクラガエルのイラストはMark Mandicaによる。