2014年12月14日日曜日

家庭で「森」は作れるか

密生した森の一番外側、バナナの葉っぱで休んでいたヒルヤモリ。 因みに移入種。 2011年 ハワイ、オアフ島

 結論から言うと、作れるらしい。ちょっと前にエンジニアリング系の番組で聞いた話。

 この話題の発起人は、日本のトヨタ自動車で働くインド人のシャルマさんという、工業エンジニアである。彼は日本で働いている間に、日本各地にある鎮守の森などを着想源として、背の高い木と、中ぐらいの木と、低木とがテトリスのように上手く組み合わさった「コンパクトだけど非常に濃密な森」を、植樹によって再現できることを知った。専門家の下で植樹のボランティア活動をするうちに植樹にのめりこんだ彼は、インドの市街地にある実家の裏に土着の草木の苗木を用いて、「インド版鎮守の森」の育成に成功する。そこで彼はこの、人間による注意深い設計と、手助けを受けた手作りの「森」が、自然のままの状態の森林とくらべて10倍の速度で育ち、30倍の植生密度を持ち、結果として100倍もの生物多様性を保有している事を知った。

 そこで、車のエンジニアである彼は「トヨタが車をライン生産するのと同じようなコンセプトで、森も作れるのではないか」と考えた。というのもトヨタでは、良い品質の車を効率よく作るために「平準化」といって、異なる車種でも単一のライン上で素早く量産できるような仕組みを導入しているそうだ。転じて、自然の森林を領域ごとによく分析して、異なる種類の土着の草木を効率的に配置したモデルを作り、量産し、それを何層も重ねて行くことで、いかなる場所でも簡単に「小さな森」を出現させることが出来るという。エンジニアリングによって空間の無駄を極限まで削られたこの森は、成長すると空間の活用率が100%近くに達するので、人が歩いて分け入ることは不可能だそうだ。これを聞いて思い出したのは、2年くらい前にハワイのハワイ本島へ行った時の事だ。火山島でスペースが限られているためか、島の原生林は自然とかなり密生していて、横から見るとジャングルがキューブというか、壁のようになっている所もあり、その密度にびっくりした。そんな有様なので人間や家畜は立ち入れないが、太く絡まり合う樹木やツタ、気根の間をミツスイなどの小さな鳥類が自由自在に飛び回り、恐らく昆虫や両生類などの小さな生き物もどっさりいるであろう気配があった。

 シャルマさんは現在、小さな「森」をエンジニアリングする会社を興して、個人住宅や学校、企業や工場などの死んだスペースを緑化する仕事をしているという。またこのテーマに関して自らが働きかけるのだけではなく、世界各地の人々が自分で「森」を手作りしたい時に、遠隔地からでも地質調査を出来るように手配をするシステムを作ったり、ボタン一つでどのような草木や樹木をどのような配合で植えて行けばいいかが分かる、オープンソースのオンラインプラットフォームの開発にも着手しているそうだ。トヨタ式平準化の結果、ひとつの「森」を作る時のコストも最小でiPhone一個分くらいまで下げられるようになってきているという。個人的に、これほどぎゅうづめて木を植えると、100年後、1000年後はどうなってしまうのだろうと少し心配になるが、「自然をデザインし量産する」という発想を得て、あるていど形になるところまで来ているのだけでも素晴らしいと思う。因みにもうピンと来ている人も居るかもしれないが、彼が強くインスパイアされた日本人の植樹の専門家というのは、生態学者で植樹の達人、宮脇 昭氏である。